2024年4月1日月曜日

 コラム367 <天道虫(てんとうむし)> 


 入院先の病室で、寝不足が祟(たた)って机に向かっているうちに椅子からもんどりころげ落ちた。側頭部とマヒ側の腰、肘(ひじ)を強打した。

 

 床はクッションフロアー張りとは云え、その下はコンクリートだから衝撃は大きかった。なかなか起き上がれないでいると、目の前に赤い地に黒い斑紋の天道虫がやってきた。羽根をぱっと広げて、飛んで行ってはすぐ目の前に戻ってくる。床に横になりながら〝この寒い冬に、君はいったいどこから入って来たんだい?″などと話を交わしているうちに、天道虫(これまで私は転倒虫だとばかり思っていた)に何だか励まされているような気分になってきた。一瞬目の前から姿が消えた。

 

 床から起き上がって机の椅子にやっと腰かけ直したら机上に立てかけてあった岩波新書『ブッダが説いた幸せな生き方』の背に止まっていた。これを再読するように、とのことのようだ。それを伝え終えたら、固めの羽根をさっと広げてまたどこかに消えた。