コラム368 <すっかりモーロクしております>
昔は認知症などとスマートな言葉は使わなかった。耄碌(モーロク)。育ちの上品な人は、モーロクしても上品だ。こういう人と出会うと、かつて住まい塾で家を造った元男爵の家のことを想い出す。
ここの奥様はある日私にこう言うのだ。
〝ワタクシ、人間ってどうなっているのか判らなくなりましたわ。
あんなに上品だったおとなりの奥様が、最近私と顔を合わせると
〝このバ・カ!〟なんて言うんでございますのよ。〟
だから私は冗談まじりに言った。
〝モーロクする前に一度言いたかったんじゃないですか?〟
以来私は人生に無理は禁物と思い定めた。相手が上品だからおとなりさんはそうざあますか式にさぞかし気を使って暮らしてきたに違いない、と思われたからである。
自分らしく、無手勝流に、丸腰で、これが一番。無理して生きていくとモーロクした時が怖いぞ。