2020年4月27日月曜日



コラム162 人の心に4つあり : 再び ―― 心根のやさしさ
 
 随分前のことになるから正確には覚えていないが、どこか地方の野街道の脇の斜面に、雑草にうずくまるようにひっそり置かれた石仏か石碑に刻まれていた言葉である。相当古いものらしく、石も朽ちかけていた。そこにはやっと読める字で、こう刻まれていた。
〝人の心に4つあり〟そのあとには〝裏と表と陰と底〟と続いていた。
人の心の辛酸をなめた人が刻んだものに違いないと思われて、この言葉は私の心に鮮明に刻まれた。

 〝人の心に4つあり 裏と表と陰と底〟

2018年2月11日(日)の住まい塾東京本部での定例勉強会後に私は脳出血で倒れた。以来、一年余りの長期リハビリ生活を余儀なくされた。退院後の快復も捗々しくなく、今冬も二カ月余りの再入院をはさんでリハビリに励んでいる。
身体の自由を失えば、人の心がよく見える。最初に想い出されたのが、上記の言葉である。その他、考えさせられたことが山程あるが、左半身のシビレが強く、今はそれを整理する気力も脳力もない。
あの世に持っていけるものは心しかないと言われる。地位・名誉・財産・権力などという重た過ぎるものは持って行きたい人もあろうが、持ってはいけない。
心のとは平たくいえば、心根というものであろうと思う。4つの心のうち、持っていけるものは、究極、この心の底―― 心根だけではないかと思われてきた。
どんなに虚飾に満ちたことばよりも、どんなに美味なみやげよりも、優しい心、優しい気遣い、即ち、優しい心根というものが何よりも心のなぐさめになるということを感じ続けた。それが表情に、言葉に、眼差しに、ほほえみに表れる。何と静かななぐさめであったろうか。
献身的に尽くしてくれた連れ合いや、二人の姉は勿論のこと、主治医、看護師、介護士、リハビリのセラピスト達、見舞ってくれた多くの心やさしき人々……。そして仕事の仲間達。
人間にとって最高のもの―― それは心根の優しさにあることを感じ続けさせられた二年間であった。これからもこの実感は決して変わることはないだろう。心のやさしい人々に囲まれて生きていることは何と幸いなことであろう。病を通じて心の底を磨き、澄んだものとすることが、人生最大の目標であると神様が教えてくれたのだ。

2020年4月20日月曜日


コラム161 Less Is More

日本には世界遺産に登録されたところが沢山ある。今は新型コロナウィルス騒ぎで激減しているが、近年海外からの観光客が急激に増えている。
 数年前になるが、私の連れ合いが、かつてホームステイしていた夫婦の孫娘(マーサ)がイギリスからやってきた。滞在期間は一ヶ月というから、奈良、京都に始まり、見たいところはたくさんあるだろうに……と思いきや、本人は全くの無計画。仕方なしに世界遺産を含め、こちらで計画したところをあちこち見て歩いて、最後の頃に訪ねてきたのが信州八ヶ岳の私の小さな山小屋であった。
〝アメイジング!!〟
はじめて訪ねた異国の地で、少々疲れたこともあったろう。
沢山見た中で最も安らぎ、最も印象に残った場所のひとつがこの小さな山小屋であったらしい。青い鳥を求めて かけめぐった果てに見つけた青い鳥であった。
 「Less Is More」という言葉が頭をよぎった。多いことは決して喜びや、幸せの基準にはならない。絢爛豪華もその通り、贅沢もその通り……。
 我々は、この一事をもって人間の幸せの何たるかを悟ることが出来る。実際、食べることにさえ事欠く貧困の辛さというものもあるが、かといって行き過ぎた豪華な食事も幸福を保証するというものではない。それよりもシンプルで素朴なものでもいい、思いのこもった料理を気のおけない連れ合いや仲間達と語り合いながら平穏な中で食する―― これ以上の贅沢はない。
 以前、マーサのグランドマザーとグランドファーザーがこの山小屋に数日滞在したことがあった。日本に滞在中、最も想い出深いところだったと彼女に告げたらしい。
 「Less Is More
 これまで幾度となくこの言葉に接しながら、今回再びこの言葉を思い起こさせたのだった。 
 こうした思想(感覚)は、茶人 千利休に始まったように思っている人が多いが、長い歴史の中で多くの共感を呼んで、今日まで日本人の心の中に根付いているところを見ると、日本民族の感性の中に、この特性が深く根を張っているものに違いない。だが、日本人はこの日本民族の特性から急速にはなれていっている。
 それにしても、最近しばしば世界遺産に指定されるためにやっきになっている自治体を見かける。観光客を多く呼び込むためのがんばりならば、世界遺産指定制度の本来の目的を大きく欠いていると言わなければならない。この制度が当初めざしたのはそんなものではなかったはずだからである。



2020年4月13日月曜日








コラム160 朝の野鳥たちとのあいさつ




朝日の差し込む和室の障子の外で野鳥が鳴いている。障子を開けたら、土佐みずきの若葉の間でシジュウカラが小さな目をこちらに向けて囀っている。
まるで、
〝いつまで寝ているの?〟
と言わんばかりに……。
 私は、
〝オハヨウ!〟
と声をかけた。
 シジュウカラは
〝起きてくれてよかった…!〟
とばかりに小枝の上で一躍りして、どこかへ飛び去った。また来てくれるかなぁ。



2020年4月6日月曜日



コラム159 <自然(ジネン)3句>


いつになく
  風に揺れるよ 白い 山吹き

白山吹
  一夜の風に散りだにも
  力の限り 一時(いっとき)を咲く

法爾自然(ホウニジネン)
  黙って咲いて 静かに散るる