コラム362 <ユーモア>
ある高僧に死期が迫っていた。床に横たわる高僧に、弟子の一人が問う。
〝最後に我々弟子に言い残すことは・・・?〟
まわりの人々は耳を澄ました。一瞬沈黙の時間のあと返ってきた言葉は
〝死にとうない・・・〟
高僧がそんなことを言うはずがない、何か聞き違えたか、ともう一度聞いた。
〝我々に言い残したいことは・・・?〟
少しの間を置いて返ってきた言葉はやはり
〝死にとうない・・・〟
であったと云う。この話を私は何かの仏教関係の本で読んだ。笑い話のようでもあり、本音と受け取る向きもあるようだが、悟りに近くある高僧のことだ。死期に及んでユーモアとしてこのように言ったのだとすれば、さすが高僧だ、と私は思う。死ぬまでユーモアを忘れず、死んでもユーモアを忘れず、あの世までユーモアで充たせたらさぞかし愉快なことだろう。