2023年7月3日月曜日

 コラム328 <白井晟一の想い出 ⑧>        ───熱が出た?・・・だからどうするんだ⁉───

 

 白井研究所は普通の設計事務所とは大分趣が違っていて出勤(というにはピタリとこないが)は昼の12時、帰りは終電がなくなりますから帰りま~す、といった調子のところだった。私は最初から板橋区の高島平団地から中野区の研究所まで、自転車通いであった。どれ位の距離があったものやら小一時間はかかっていたように思う。

 

 冷たい雨の寒い夜だった。雨に濡れながら帰り、夜中1時半から朝方6時までの肉体労働のアルバイトをこなして帰宅。入浴、仮眠2時間といった生活をしていたら、さすがに39度を超える熱を出した。単なる風邪であったかインフルエンザであったかは判らない。研究所に電話したら白井晟一が直接出られた。

  

  〝熱が出た?・・・だからどうするんだ!来るのか来ないのか!〟

  

 30才位の時だからこう言われては〝休みます〟とも言えず、腹も立つはで

  〝これから行きます‼〟

と言ってしまった。

  

  〝クソッ、風邪の熱位で休むことは以後絶対にしない!〟


 その時の腹立ちまぎれの決心である。決心とは不思議なもので以来、76才の今日まで風邪は引いてもそれで寝込んだりしたことは一度も無い。研究所に着いてから白井晟一に懇々(こんこん)と説教された。

  

  〝君達は腹が痛い、熱が出た・・・だから休むのは当然だと思っている〟


 その翌日から白井晟一は高熱を出して寝込んだ。〝ざまあみろ!〟とは思わなかったが、30才前後のことでもあるし、あるいは多少思ったかもしれない。以来この件に関して白井晟一と話し合ったことはない。