2015年11月2日月曜日


コラム 9 <おメェたち、歩いてケエレ!>  

 八ヶ岳山麓の原村に、とある寿司屋さんがある。地元書店の店長さんに薦められて行き始めたのである。
 創業して36年というが、山中のことだ、さぞかし苦労も多かっただろうと思う。大将はもう70才に近い。だから二代目の客も多いのだろう。 

 ある時、30代と思われる二人連れの客が酒を呑んで、帰る段になった。二人とも村役場の職員のようであった。
“タクシー呼んでくれや・・・・・”
と、途端に大将は小気味いい調子で、
“タクシー?!
おメェら、オヤジ達がどんなに苦労してここまできたか、知ってんのか
役所づとめして、苦労も知らねえで・・・・・
タクシーなんか呼ぶこたァねえ、歩いてケエレ!”
八ヶ岳山麓には高原野菜をつくっている人達が多い。開墾当時の話も聞くが並大抵のことではなかったようだ。そんなこともあってのことだろう。
だが、このせがれ達は車で来たから代行がいるのだといってきかない。
それでも大将は引き下がらない。
“車置いて、歩いて帰りゃあいいじゃねえか、
あしたの朝、また歩いてくりゃあ済む・・・・・
 甘ったれたことばっかり言ってんじゃ、ね・え・の・!“ 

以来、私はこの大将のファンになった。がんこでぶっきらぼうだが、気骨がある。それが顔に表れている。今は少なくなったが、こういう人がいる街は健全だ。