コラム303 <人間の劣化 その② ───『なぜ日本人はかくも幼稚になったか』(角川春樹事務所)── について>
1996年に発行された本であるが、著者の福田和也氏は、『日本の家郷』で三島由紀夫文学賞、『甘美な人生』で平林たい子文学賞を受賞するなどすでに注目されていた文筆家であった。又鋭い論評で注目される論壇(ろんだん)の一人でもあった。当時慶大助教授になったばかりの36才。私がこの本に出会った時、36才の壮年にこのようなタイトルで本を書かせてしまう程、日本人及び日本は精神的に衰えてしまったのか、と思ったものだった。福田氏はこの著書に自らも書き記している。
「私は今、36歳です。
若いとは云えないけれども、しかし世間様にえらそうなことを云うのに
十分な年齢を重ねているとは到底思えない。しかも、人様のことを指弾して、
幼稚だなどと云えるほどの、立派な人生を歩んできたわけではありません。
(中略)
本当に今の日本人はヒドイのではないか、有史以来、まれなほどヒドイのではないか、
と思われてならないのです。冗談にすらならないほど、日本人はコドモになっている、
質が低下して、尊いところが少なくなって、ツマラなくなって、考えが足りない、
と思われてならないのです。
しかも、どなたもそのことを、きちんと、おっしゃいません。
だから、私のような者が、申し上げなければならないのです。」
こんな風に書かせてしまうひどさが当時すでにあったということです。今の日本及び日本人にはなおさらのこと、と感じている人はとても多いと私は感じています。
しかし、〝自分のことを考えたら、何も言えない・・・〟といった風にモノ言わぬ、モノ言えぬ日本人が、日本社会の中に激増してしまった。これは事実なのではないか、と思うのです。あるいは多くの日本人が、個人が言っても何も変わりゃしない、と諦めてしまっているのかもしれません。
私ですら尊いものをいっぱい持っていた日本人が、なぜこんな風になってしまったのか、と心のうちでよく思います。口にしないまでも、私と同じように感じている人々が沢山いるに違いないのです。
本書は、語り口調は礼儀を弁(わきま)えて、ていねいですが、しかし指摘の内容は直言、辛口です。弱々しくなった今の日本人には、右翼と勘違いされかねない表現もちらほら見受けられますけれども・・・。
もっと深く、詳しくお考えになりたい方は、御一読を・・・。今は本が読まれない、売れない時代ですから、疾(と)うに絶版かな・・・。