2021年8月23日月曜日


 コラム231 <わからないことだらけ>

  デッキに椅子を出し、腰掛けていたら、腕に蝉が止まった。トレーナーの袖を伝って上へ上へと登っていく。小型の夏蝉ではない。油蝉でも勿論ない。羽根が透明なカナカナ蝉に似ているが、それをひとまわり、小さくしたような形をしている。目が合ったので聞いてみた。
 〝君は何という蝉だい?〟
 〝ジィッ〟と答えた。
 ちょっと目を離しているうちに姿が見えなくなった。襟(えり)のうしろあたりで〝ジジッ、ジジッ〟と最後の鳴き声をあげた。〝ジジイ、ジジイ〟と言っているんじゃないだろうな、もうだいぶ弱っているようだ。お互いに……。 

 疑問1 蝉は土中で何年もいるという。何を養分にして何年も生きているのだろう?

 疑問2 蝉は土中に居ながらどのように梅雨明けを知るんだろう?
 疑問3 梅雨が明けた途端に一斉(せい)に鳴き始める。あちらでも、こちらでも、離れたむこうの方でも…… 知らせ合うといっても無線機がある訳でなし、どのような手段で伝え合うのだろう。

  わからないこと、知らないことだらけだ。蝉に聞いてみたいものだと思った。

 白樺の幹に帰してやった。最後の力をふり絞りながら上へ上へと登っていった。天国をめざすかのように……。