2022年6月27日月曜日

 コラム275 <東京本部:樹木伐採のお祓(はらい)>

 

 この家と共に生きてきた樹々達よ、家を風雨から守り、我々に涼やかな風を送り、日々の生活に潤いを与え続けてくれた樹々達よ、君達の心は我と共にあった。これまで道往く人々に、バス停で待つ人々に、どれほど安らぎを与えてくれたことか。


 だが許したまえ。人間が勝手に作ったこの近代文明社会の中では、人間の自然に対する感謝の念は薄れ、街の中で君達の命を守り続けることは困難であった。深い感謝の思いを抱きながら、無念の思いで祈りを捧げる。

 大空に向かってもっともっと伸びたかっただろうに…

 

〝樹々の命達よ、天に登れ!〟

 


 


 伐採が始まる二日前の夕方、神主さんは、心を込めて我々に理解できる言葉で一本一本丁寧にお祓をしてくれた。私の心はひとまず安心した。同席した皆も同じ気持ちだったろう。


 見事な連携作業であった。高所作業台の付いた大型のリフターが二台。枝が効率よく伐り落とされてゆく。それが大方済むと次は幹の吊り伐りだ。先端から徐々に徐々に…。東京本部を囲っていた多くの中・高木達が今日で命を終える。私は二階の私室の窓からその姿を眺めていた。さすがに涙が零れた。机の上にローソクの火を灯し、線香を煙らせ、鈴(りん)を三度鳴らした。涼やかないい音色だった。

 翌朝いつものシジュウカラが寂しく鳴いた。(2022.4.14 記す)