2022年4月4日月曜日

 

コラム263 <死者と共に生きる>

 

 これは観念論だろうか、それとも事実だろうか、真実だろうか。これまでの74年の間に、さまざまな人の死に接してきた。

 病や震災、突然の事故による死に別れ。言葉では表現し切れない悲しみや寂しさを胸に抱き続けている人々が大勢いる。

 だが死は別れではない。歴史上に残された古の人々の書物に触れて共感を覚えたりする時も、生命の繋(つな)がり、魂の共感関係が続いていることを思う。死に別れた人の分まで長生きしよう、そうしなければ、などという人がいるが、そんなことは可能な訳がない。その心情はわかるが、命はその人固有のものだから、その人の命を他の人が引継ぐことはできない。

 

 人の命が魂として永遠であるとすれば、今の私がまわりの人々と共に生きているのと同じように、過去に亡くなった人々とも共に生きているのだと思うことができる。古の本を読むのも、その人達と魂が繋がっていたいと願うからだ。だから書物は過去の人々と繋がるかけがえのない媒体である。書物がある限り数千年前の人々とも何らかの形で繋がることができる。死者と共に生きていると私が感じるのはそういう時である。それ故、書物はこの上なく大切なものなのである。