コラム 26 <滑落事故その①> ――山道はリュージュコースとなりにけり――
ここ数日気温が緩んで雨となり、夜にはぐんと冷え込んでこれを繰り返し、山道は登るも下りるも危険な状態となった。八ヶ岳は気温が低く、それゆえさらりとした粉雪の降り積る所であったが、年々こんな状態になることが多くなった。
冬山生活には四輪駆動車が必需であるが、これは登る分にはかなりの性能を発揮するが下りが危ない。チェーンさえ効かぬ状態になるのだから、いかに高性能スタッドレスでも一旦滑り始めたら止まらない。しかも車体が重い分だけ勢いがつく。
昨冬の山道はこれまでになくひどくなり、完全にリュージュコースのような状態になった。アイゼンも簡易なものでは用を足さない。私と冬山生活を共にしてきた高性能車レンジローバー(ローギヤーの下に、さらに四段ギヤーがある)もさすがにこのアイスバーンには勝てず、滑落事故を起こしてしまった。
30年近い冬山生活で初めてのことであった。山側に突っ込んだからよかったようなものの、谷側に落ちたら大変なことだった。JAFの4WD救援車がチェーンを巻いて登ってきてくれた。しかし、二次災害の恐れありとのことで接近できず、自力脱出を試みることになった。JAF隊員の動きはさすがであった。そのおかげでやっと脱出できたが、それでも丸二日を要する脱出劇であった。
今冬はその経験が生きて道路状態を早目早目に察知して対策を立てる知恵が生まれた。
第一に、距離にして200メートル程下ったところの窪地に車を駐めておくこと
第二に、凍って困るもの以外の荷は積める時に積んで、いつでも下山出来るように備
えておくこと
第三に、万一に備えて、毛布、手袋、使い捨てカイロ等の防寒具とアイゼンを車に常備しておくこと
ここまでしておけば、ひとまず安心だ。だが、それでも冬の帰宅時には積荷が多いから一時的にでも車は小屋まで接近できた方がいい。さて、この方策をどうするか・・・・・。
昨年は滑り止めに縁の下から土を掘り起こし、大きな袋につめて要所要所に散撒いたのだが、これがなかなか骨の折れる重労働であった。土そのものが重いし、運ぶ距離も長い。それに幾度も幾度も運ばなければならない。
毎年こんなことをやっている訳にはいかないと思った。まわりは全面凍土となって掘り起せる場所は限られるから、毎年こんなことをしていては縁の下の土が無くなってしまう。しかもそのあと雪や雨にでもなれば効果は半日と持たなかった。これは苦労の割にいい策ではなかった。 (続く)