2024年1月15日月曜日

 コラム356 <白井晟一の言葉② ── ローコストでなければ建築とは言えないよ ── > 


 ある時白井晟一は


  〝君、ローコストでなければ、建築とは言えないよ〟


と言われた。

 白井晟一の建築を知っている人達にはこれは意外な言葉に思われるかもしれない。しかし10年間歩みを共にした私にはよく判る。


 木造の小住宅においてすら白井晟一が設計する開口部は大きい。それにつれて建て込まれる建具寸法も大きくなる。例えば間口2間(約3.6m)の引違い開口部なら4枚の建具を入れて納めるのが通例である。ところが白井晟一はこれを2枚で納める。好みやバランス上のこともあったに違いないが白井晟一はこれをローコスト対策だと言うのである。確かに巾3尺(約90cm)の建具を4枚入れるより、巾6尺(約1.8m)の建具を2枚で納める方が安くなる。冷静に計算すれば建具金物、職人の制作手間も少なくなるし、加えてアミ戸、雨戸なども含め考えると総合的にはかなり安くなるのであるが、通常はこのようには考えない。通常ローコスト住宅(建築)という時には安価な住宅(建築) ─── 具体的には坪単価が安いものという風に受け取られているから、この話をすると、まわりからは

  〝白井先生のところでローコストはないでしょう!〟

などとよく言われたものである。事実坪単価にして見た場合、その時代の一般的な住宅より低いということはなかったに違いない。しかし質を上げればコストが高くなるのは当然のように思えるが、それをいかに創意工夫してローコスト化できるか──これも建築家としての力量の大事なひとつである、と言うのである。後に私が住まい塾を始めてから「真のローコスト化」と呼んでいたものは、後(のち)に気付いたことであるが白井晟一のコストに対する考えが根底にあったことは間違いない。