コラム208 <日本人の精神から深く抉(えぐ)られたもの>
第一に金儲け以外に対する情熱
第二に礼節:これは予想外であった。〝衣食足りて礼節を知る〟と言われ続けてきたからである。
そして特に男達から大きく失われたのは勇気と仁義だ。
電車のドアが開いた途端、空席をめがけて我先にと突進する男の姿などを見ていると「恥の文化」と言われ、ある意味で世界から賞賛されていた国が見事なまでに恥を知らない国となったと無念に思われる。仁義などという言葉は時代が古いと言われるかもしれないが、それと共に男の美学が失われた。DVD化された仁義・任侠ものの映画は今でも人気が高いらしく値が下がらないところをみると男達の胸の内には失われはしたが、どこか潜在的に魅かれるものがあるのかもしれない。しかし今日の日常に見る限りこんな気概を持った男はもはや絶滅に近い。
〝一肌脱がせてもらいますわ…。〟
懐かしい言葉であった。
次に思い出すのは数年前のことである。ある人を通じて一度ぜひ会いたいと言われ続けていた画家でいたが、ある酒場で急に会うことになり、酒を呑み交わしながら言われた言葉も忘れられない。
〝あんたのためならワシ命張りまっせ!〟
私はヤクザとも右翼とも縁はないが、どういう訳かこういう任侠に近い人と時々出会う。前世で、任侠の世界と縁があったのかもしれないと思う時がある。儒教の教えが薄れ、仁や義の教えも薄れたが、日本の長い歴史の中で、この儒教の根は侍の美学・男の美学などに深くかかわりを持っていたのであろう。日本の男達から最も深く抉り取られたものはこの辺のものであるかもしれない。
<仁義>:ジンギ