私は秋田県湯沢市に生まれた。豪雪地帯である。今は年の半分を信州の山の中で暮らしているが、大雪の日にはこの「雪国生まれの雪国育ち」が威力を発揮する。除雪、道つけ、屋根の雪降ろし、かまくらづくり、そして春先になれば鉞(まさかり)で路面の氷を割るのも恒例であった。数年前山は記録的な大雪に見舞われたが、特別驚くことも無い。育った風土の影響である。
〝タカハシさん、シャベルの使い方うまいですねえ!〟
私のシャベル捌きは私の育ちを知らない人から見ると驚きのようだ。広い駐車スペースなども短時間で除雪が終わる。こうした技は父親から自然に引き継いだものだ。
父親は実に梱包のうまい人でもあった。一つの箱があるとものの見事にピタリと美しく詰めた。
この家風を子供達が引き継いで、私も梱包はうまい方だと思う。〝あのイメージ〟を引き継ぐのである。〝あれに較べてどうもまずいな、うまくないなぁ、きれいじゃないなぁ・・・・・〟となるのである。
親の影響とはこのように知らず知らずの内に身に沁みている。
器好きと共に料理好きも、きっと母親の影響だ。厳寒期、日本海の真鱈(まだら)は腹に大きな子を孕む。これを絞り出し、刻み昆布とスルメを加えて酒、醤油、味醂で一晩漬け込む。残った皮は細かく刻んで炒めた人参、糸コンニャク、時にシイタケなどと共に出し汁で味付けをする。これなど食べるばかりで作り方を教わった訳でもないから、幾度も挑戦しては失敗し、ああでもない、こうでもないとやるのである。やはり〝あの味〟と比較するのである。
私には姉が二人居る。秋田にいる下の姉がこの味をしっかり引き継いで、過日そのコツを聞いた。
最近やっと〝母のあの味〟に近づきつつある。
作った二種を長野に居る姉に送ったところ
〝あまりに懐かしくて、涙を流しながら食べている〟
とのことであった。