2023年3月20日月曜日

 コラム313 <ストレス社会>

 いかに静寂な音楽でも、騒々しく聞こえる時がある。静かで心地よい音楽といったものは、それが単独にあるのではなく、こちらの心の状態との相関の上に成り立っているものだということが判る。イライラした心を音楽が癒してくれるということも、勿論あるだろう。これも同様に音楽と人間の心との相関関係の上に成り立つ話である。


 ストレスは、著しく免疫機能を落としめるという。

 ということはストレス社会は多くの病を生ぜしめる、ということでもある。

 裏返せば、病を少なく生ぜしめるには、ストレスを軽減する方法を身につけ、免疫力を高めておかなければならないということである。しかし、いかに医学が科学的に進歩しても、そのスピードをはるかに越えてひどいストレス社会となっていく現代では、この課題を克服していくのは容易なことではない。新型コロナのパンデミック以前に、ストレスのパンデミックが生じていたのに、我々は関心を怠ったのである。



       

 ストレスが限りなく蔓延していくその遠因を現代社会の構造と、我々の生活スタイル、及び人間としての価値観の中に求め、学び、気づき、実践していくことで、心の安定をはかっていく以外その道は無いように思われる。

 本草学者であり、儒学者でもあった江戸前期の貝原益軒(かいばらえきけん:1630~1714)の『養生訓』にはすでに以下のように記されている。

 

 〝養生の術は先ず心気を養うべし。心を和にし、気を平らかにし、怒りと慾とを抑え、憂ひ、思ひを少なくし、心を苦しめず、気を損なはず、是心気を養う要道なり〟(健康を守るうえで最も大事なのは心を穏やかにして平常心を保つことである、ということらしい。) ──『免疫と「病の科学」』より──

 

 上記の本は毎冬入院リハビリを続けている鹿教湯病院の最初の担当セラピスト須江慶太さんが今冬私にプレゼントしてくれたものである。彼は専門家としてだけでなく人間としても名セラピストである。