2025年2月3日月曜日

 
コラム411 <病の効用> 



  〝人間は病気であればあるほど人間である〟


 トマスマンの『魔の山』にはこのような言葉があるらしい。


 病いが人間的成長に大きな役割を持つことが描かれている。親戚の高見浩夫さんが見舞い方々持って来てくれた本『臨床の知とは何か』(中村雄二郎著)の岩波新書版の中にも同様のことが書かれていた。

 高見さんはこれまで自分が読んだ本の中で最も多くの回数を読んだ本だとして持って来てくれたのだが、中村雄二郎さんといえば、私が学生の頃すでに名を知られた哲学者であった。哲学者の本であるからよくもまあこういう本を幾度も読んだものだと感心しながら読み進めたが、途中「死の考察」あたりから興味深く読み進んだ。哲学者の考察であるから宗教的側面からの考察が殆どないのが残念であったが、これも分野違いというものであろうか。しかし命の問題は哲学者にとっても心理学者にとっても医学者・宗教学者にとっても共通した問題であるはずなのに、あるいは考察して結論を見い出せる類のものでないのかもしれない。永遠に一つの結論には達し得ない問題なのだろう。






 この本の中に他にも印象深い言葉があった。


  〝あまりに健康な人は病人に対してばかりでなく、一般に他人に対して思いやりがない、と言われる〟


 トマスマンと同様のことが語られている。人間はきわめて複雑にできているが、古今東西繰り返し語られる言葉の中には真理が含まれていると云っていいように思う。上記の言葉は病に倒れる前の私自身であった。