2021年6月14日月曜日

 コラム221 <古美術屋さんが泣いている>

  売れない、さっぱり売れない。そりゃあ、そうだと思う。古美術の似合う家が無いからだ。昨今主流のビニールクロスボックスをサイディングで包(くる)んだような家では、古美術を楽しもうにもそういう気分にならないであろうし、そのような空間に長く身を置いて暮らしていれば、古美術に関心を寄せる感性すら育たないに違いない。それ故欲しがらない、結果売れもしないということになっているのだろう。

  私の若い頃には長く骨董・古美術ブームが続いた。ある時期には古伊万里ブームがあった。金が無くとも江戸時代の蕎麦猪口を随分買い集めた。味わい深い染付の大皿・中皿・豆皿(小さい皿のこと)、他鉢類なども多く求めた。ブームが去り、売れない、買わない時代となって値崩れを起こした今日から見れば、随分高値で買ったものだが、その分楽しみも多かった。物そのものも勿論楽しかったが、それ以上に古美術屋さんとの交流や、同様の趣味を持つ仲間達との骨董談議が楽しかった。
 骨董・古美術店に限らず、今手工芸品の店も泣いている。その裏では住生活に直結している木工家や陶芸家・漆芸家・ガラス工芸家達も辛い思いをしていることだろう。画家の絵もまた売れない。左官壁のようであって左官壁ではないビニールクロスの壁、貼りものの合板床、塩ビシートに木目プリントのドア及び天井板等、外部にあってはタイルや石のようであってそうではないサイディング……このような家では優れた古美術品など優品であればある程似合わないだろう。こうして骨董・古美術屋さん達が泣いているのだ。貴重な古美術品の多い日本で長い歴史を生き抜いてきたそれらは使われず、生かされず、これからどういう運命をたどっていくのだろうか。住宅の持つ影響力の大きさを忘れず住生活の充実、延(ひ)いては精神生活の安定のためにも、歴史と共に歩める家を仲間達と共に今後も作り続けたいと願っている。