コラム179 <八ヶ岳の標高千数百メートル付近の山間道路を走りながら考える>
皆セカセカと追い越してゆく。都会と変わらぬようなスピードで。まるでみな苛立ちながら走り去ってゆくようだ。
緑たっぷりの涼やかな道路をどうしてこうもセカセカと走って行かなければならないのか——しかも排気ガスをブカブカ吐き出しながら……この人達はこんなにもゆったりした環境の中に来ながら、どこで、どうやってゆったりするのだろう。地球の温暖化など自分らとは一切関係のない話だと思っているのだろう。地元の古老は、〝以前はこの辺で夏窓を締めて走る車なんて見ることなかったんだけどねぇ〟とつぶやいた。
以前、〝そんなに急いでどこへ行く〟というTVコマーシャルがあったけれど、あれは名コピーだった。今、改めてそう聞かれても答えはあいかわらず
〝どこに向かっているんでしょうねぇ……〟
位だろう。
あのコピーからもう何十年も経つというのに、日頃のセカセカが益々身体に浸み付いて、体内リズムが振り子の短い時計のようにせわしなくなっているのだろう。
だが、私は今はっきり言う。
〝そんなに急いでも決していいところへは行けないよ〟……と。
〝ゆったりした道では ゆったり走ろうよ〟
〝散歩道では 野辺の名も無き野花の美しさでも眺めながら、ゆっくり歩こうよ〟
今の私のようになっては、それすらできないよ。
みんな日々の大いなる恵みを大切に!