コラム404 <有井日出子さんの座右の銘>
古美術商 有井日出子さんとは古美術骨董品を通じて長い間交流させてもらった。私が脳出血で倒れるまでは、ほぼ毎月伺った。住まい塾の大阪本部は豊中市服部にあるし、有井さんは宝塚市の売布であったから、阪急宝塚線一本で30分程の距離というのも幸いした。
美術館と古美術商との違いは美術的価値においてグレードの差こそあれ、一方は手に取って触って観ることができないのに対して、古美術骨董店では基本的に手に取って、その感触を確かめられるところが違う。ガラス越しに見るのと、手に取って観るのとでは大違いなのである。美術館で茶碗などの見込を見たく、頭をせり出し、大きなガラスに頭をぶつけてゴ~ンと会場内に音を鳴り響かせ、隅に座っている見張り番に睨(にら)まれたことは二度や三度ではない。有井さんのところは自宅兼であったから余計に気楽であった。
一見世話好きの浪花のおばちゃんのように見えるが、私より一廻り以上年上であったし、戦中戦後を通り抜けた苦労人でもあったから気遣いも心配りも細やかであった。骨董・古美術品を見せてもらうだけでなく、人間的なことに関しても多く教えられた。そのひとつが有井さんが座右の銘にしているという次の言葉である。
〝受けた恩は石に刻み、かけた情は水に流す〟
人間関係も豊富であった有井さんは、これまでどれほどかけた情を水に流してきたことか。