2019年11月11日月曜日


コラム138 <急性期(救急)病院からリハビリテーション病院へ>

発症から一日も早くリハビリを始めた方がよいとはよく言われることだが、急性期病院でもリハビリはしてくれるが、元々の役割が違うし割り当てられる時間も短い。それでも一歩足を出すにも困難な状態で二人の女性セラピストが汗だくになりながら懸命に取り組んでくれた。
太もものつけ根までロボコップのような装具をつけてかかえられながら車椅子からやっと立ち上がり、手摺づたいに ヨッチラヨッチラ 歩くのである。寄り添ってくれた二人の懸命さは忘れがたいものであった。

その後の転院先のリハビリテーション病院をさがし、決めるまでが大変だ。まず第一になかなか空きがない。看病する側にとって立地の問題も重要だ。友人たちも色々な病院の情報をくれた。病院のソーシャルワーカーも各病院と連絡をとり、調整してくれた。そんな中から病院の経営ポリシーからして少々日数を待ってでも、ここがいいと直感したのが千葉県の「松戸リハビリテーション病院」であった。後に別れた妻も早く入れるようにこの病院に日参してかけ合ってくれたらしい。こうしてやっと転院先と転院日が決まった。
この病院は新しく建った分きれいで、病室も広く快適であった。ベッドの他にソファ、デスク、収納家具、デスクスタンドが備えられ、壁には複製画であることは致し方ないとしても絵も掛けられていた。家具のレイアウトは患者が自由に変えていいというので看護士さん達の手を借りて自分流に変えた。これだけで部屋の雰囲気は大きく変化し、息子が準備してくれたCDプレイヤーとCDでほとんどの時間静かなジャズを流していたから、それに白々とした蛍光灯の大きなシーリングライトは消して唯一電球色であったテーブルスタンドのみを点けていたから、特に夜入ってくる看護士さん達は
〝ここに来ると気持ちが落ち着きますよ〟とか
〝他と同じ病室とは思えませんね〟とか
〝疲れた時、時々来ていいですか?〟
などという人まで現れてしばし音楽を聴いて帰る人もいた。冗談まじりに、
 〝こんどコーヒーでも持ってきて休ませ      てもらおう〟
などという人もいて、チェットベーカーやスタンゲッツなどのファンになった人もいるに違いない。
それからというもの、どれだけ多くの人と音楽や住宅の話をしたか分からない。部屋には私の書いた本や住宅建築の特集号を置いてあったから、借りていく人もいたし、皆住宅に大きな関心を持っているものだと改めて認識させられた。

 




 この頃は新刊本(平凡社)の校正の最終段階に入っていたから車椅子に腰かけながら辛い思いで作業を続けていた。宝塚から見舞いに来てくれた住まい塾OBの医師Sさんが自分の経験からして、これがいいですよ と早速ジェルクッションを送ってくれた。このおかげで校正作業がどれ程助けられたかわからない。
この病院の職員たちは皆親切で優しく、不快な思いを一度もしたことがない。みごとだと思った。
職業がらただ一つだけ気になったことがあった。
病室のエアコンが集中管理方式になっているためエアコンのONOFFを自動的に繰り返す度に天井吹出口付近の金属が収縮を繰り返すのだろう。これが皆寝静まった夜中に ピチッピチッピチッ と音がして気になってなかなか寝付けない。脳神経の病だから余計に敏感であったのかもしれないが、この時も新しい病院ができたら経営者も医師も看護師もどんな問題があるのか、入院患者となって寝泊りしてみるといいと思われた。もしこれが住宅のベッドルームならきっとクレームの対象になる。志高い病院であればある程、病院(特に長期入院を余儀なくされる病室)にはもっと住宅の感覚を取り入れる必要があると痛感した。