2016年2月8日月曜日


コラム 23 <タンクローリー車> 

 冬期マイナス20度にもなる山中では、灯油の供給路が断たれると命にかかわる。暖炉もあるにはあるが薪の準備は楽しむ程度であって、主暖房を石油に頼っているからである。
 以前はU石油にお願いしていたが、今はこの別荘地にガスを供給しているNプロパンに切り替えている。〝プロパンだけでなく、灯油もやりますから宜しく〟と言われたからだ。だがそう言った割にはなさけなかった。
 Nプロパンは、元来プロパン会社であるからボンベの搬送には慣れている。だが灯油ともなると勝手が違う。どこか提携しているガソリンスタンドが一昔前のローリー車で登ってくるのだから、凍結道路などでは特に危険が伴う。しかも私の山小屋前の坂道は、管理人もこの別荘地で一番怖いところだという程だから、そう簡単ではない。 

 頼んだ最初の頃はよかった。だが冬に入ってよほど恐ろしい目に遭ったらしく〝灯油、冬は勘弁してもらえませんか〟と言い始めた。灯油を冬勘弁してどうするのか・・・・・
 当初私は、余程のことがない限りU石油は登ってこれたのにNプロパンでは登れない、というのは慣れと訓練の問題だよと食い下がった。それでもNプロパンの担当者は〝運転手がとにかく怖い思いをしたらしい〟と言う。私は次にローリー車がやってくる時にはつきっ切りで見る約束をした。
 
現場の様子を見て、弱音の理由がよく判った。やっと登ってきたはいいが、自重で坂道をズルズル滑り落ちていくのだ。それにハンドルの制御がきかない・・・・・登り坂を下からくるのだからタンク内の灯油が後方に偏り、その自重で運転席の方が持ち上がってしまうのだった。
 考えてみればU石油のローリー車は比較的小型でタンクが四輪タイヤの直上に付いている。これに対してこんどのローリー車は旧式大型でタンクが後方にかなりつき出ている。そのためにバックで帰ろうにもブレーキを踏む度にフワンフワンと前輪タイヤが浮いて全く制御が効かなくなる。これじゃあ〝とにかく怖い思いをした〟というのも無理はない。
 結局この地域への灯油供給は新型小型ローリーに替えるか、あるいは供給をあきらめるしかない、ということになったのだが、このガソリンスタンドでは小型ローリー車にする経済的余裕はないという。 

 その後どういう話合いがなされたかは判らない。今は小型ローリー車で来てくれている。それでも万事解決とはいかない。
 昨夜のみぞれ混じりの雨で、今日は今冬一番の悪コンディションとなった。数日前に頼んで、やっと今朝来てくれたのである。勿論新型4WD,スタッドレスタイヤで・・・・・。
外にはローリーのおじさん1人しかいないはずなのに、不思議にも話し声が聞こえる・・・・・どうも携帯電話で誰かと話しているようだ。聞いていて私は思わず笑ってしまった。
 〝いゃ~、今えらいとこへ登ってきちゃってさあ・・・・・滑って、帰り降りられっかどうか・・・・・チェッ・・・・・いざとなりゃあ、どっかでチェーン巻くしかねえだわ・・・・・〟