コラム462 <真理>
ある高名な師匠の元に熱心に弟子入りを志願する者がいた。やがてその熱意が認められ、念願適(かな)って弟子入りすることが出来た。
その時点では師のレベルは95に達していた。入門したての弟子のレベルは50にも達していなかった。弟子は熱心に修行に努め、成長し、85程のレベルに達した時どのように思ったか。
“私も成長し、師との距離もだいぶ縮まった・・・〟
その時の師のレベルは96に達しつつあり、いよいよ悟りに近づいた境地であった。しかしこれに対して真理は説く。
〝師との差は以前にも増して、はるかに大きくなっているのである・・・〟
と。
師は通常ならば弟子達より先に死の床につく。弟子達はこの真理を悟らぬまま、いいかげんに年老いてポツリ、ポツリと死んでゆく。
こうして真理は悟られぬまま置き去りにされ続ける。当然、師を越える者も出ない。何と悲しいことではないか。
うろ覚えながらこの話を私は能の『花伝書』で知ったと長年思っていた。そう思って花伝書を再度繙(ひもと)いてみたがこうした節はどこにも出てこない。あるいは何かほかの仏典にあったのかもしれない。夢の中で見た可能性もある。 誰か知っている人がいたら教えてもらいたい。明らかにひとつの真理だからしっかり胸に刻んでおきたいのである。身近に存在する真理を置き去りにしていく訳にはいかないからである。