2024年3月25日月曜日

 コラム366 <恩> 


 これまで沢山の人々の恩を山程受けてきた。よく通った宝塚の古美術屋さん『昔々庵』の有井日出子さんもその一人である。随分長いことお世話になった。骨董・古美術 ─── 器、茶道具、掛軸、等々色々見せてもらい、手で、眼で、触れさせてもらった。毎日新聞社系の広告会社に居た頃から好きで買い集めたというだけあって、知り合った初期には通称古伊万里の名品を数多く持っておられた。ほぼ毎月、大阪に行く度に伺って、楽しかった。訪ねる度に必ず食事を準備してくれていた。食事時間を避けて伺ってもそれは変わらなかった。あのように世話好きで面倒見のいい人はもう浪花(なにわ)のあの年代にしか残っていないと思われた。交際範囲の広い方だったから、家を造りたいという人を住まい塾に幾人も紹介してくれた。おもしろい話、益になる話、諭される話を随分聞いた。想い出に色濃く残る方であった。すぐに想い出すのは次の言葉である。


  〝受けた恩は石に刻み、

   かけた恩は水に流せ〟


 これは有井さんが座右の銘にしてきた言葉だそうである。

 現代はこれが逆転してしまっている人の何と多いことか。